Written by 柏崎夢乃
初めて心をつないだ日、初めて接吻を交わした日――「互いのためのひとり」であることを確かめ合った日。
ひとつひとつを細大漏らさず、彼は自分の記憶の中に確認してゆく。それは、今の『彼女』には不可能な行為だから。
『彼女』は、醜く歪んだ目的のために、大切な記憶を人為的に改竄されてしまった。そして、あの「全ての終わり」=ジャジメント・デイのその日、彼女は彼のために自分の全てを捨ててしまった。
だから、抜け落ちてしまった彼女の記憶は今もって取り返せないまま、ところどころの空白を埋められないままになっている。しかし、それを気にするそぶりさえ見せないようにしているのが痛ましかった。
代わりに彼が、彼女と『彼女』の記憶を抱いている。忘れられない、忘れたくない、忘れてはいけないそれらの記憶。もし彼が忘れてしまえば、もう彼女がそれを思い出すよすがさえ現在の『この世』には存在しないのだから・・・。
――Prrrrrr・・・Prrrrrr・・・Prrrrrr・・・Prrrrrr・・・Prrrrrr・・・
「・・・はい、・・・あ、日向さん?・・・はい、はい、・・・は? 今すぐ、ですか? ・・・はぁ。判りました。じゃあ、綾波と二人で・・・はい。はい、はい。では」
「・・・どうしたの?」
レイが、電話を切ってからしきりに首をひねっているシンジに問いかけた。もうすでに、宵の口とは言いがたい時間になっていた。
「・・・日向さんからだったんだけど、司令がね」
「冬月司令が、どうかしたの」
「二人で、本部へ来いっていうんだって」
「?」
レイも愛らしく首をかしげて考え込んだ。
「緊急の要件、なの?」
「すぐに来いって・・・迎えをよこすから、少し改まった格好をして出て来いって」
「・・・?」
「とりあえず、着替えてから考えようよ。迎えに来た人を待たせたら悪いし」
「・・・改まった服装・・・制服ではいけないかしら」
「日向さんの口ぶりだと、制服じゃないほうがいいかもね」
「――そう」
全くもって不得要領なまま、二人はそれぞれ着替えをしに自室へ引き取った。
「って言われてもなあ・・・」
もともと、シンジのワードローブはひどくシンプルだ。制服のほかは、チノパン、ポロシャツ、木綿のカッターシャツなどのアイテムが少しずつ。しかし、下着や寝巻きにもするTシャツが一番多いのは、年相応といったところか。
「うーん」
悩んでいても服の数が増えるわけでもないので、生成のボタンダウンシャツにビスクベージュのチノパンをあわせ、紺色の麻のジャケットを上に着た。
「改まった、って言うとネクタイしたほうがいいのかな?」
持っているネクタイを出してみる。高校の制服のブルーのネクタイのほかは、黒いのと濃紺のと――無地の、これまたシンプルな細めのものだ。
「・・・紺色にしよ」
この黒のネクタイは、ジャジメント・デイの犠牲者を弔う合同葬儀のときにしめたものだ。シンジは『葛城ミサトの家族』として葬儀に参加した。彼の父も犠牲者のひとりに名を連ねていたが、シンジは父のためではなくミサトのために、用意された『家族席』に座った。
もちろん父への反発もないわけではなかったが、それだけではない。ミサトは、彼にとって初めて『自分からいたいと願った場所』を作ってくれた大切な『家族』だったからだ。
『ただいま』と笑顔で言えた場所・・・そして『お帰りなさい』と笑顔で言ってくれた人がいた場所。
黒いネクタイとそれにまつわる思い出は、3年経った今もなお、シンジの胸をぎゅっと締めつけた。シンジは手早くネクタイをしめ、鏡の中の自分をちらりと確認して部屋を出た。
レイは困惑していた。改まった格好といえば、制服ぐらいしか思いつかない。
「どうしよう」
シンジに負けず劣らず、彼女のワードローブはシンプルだった。
さすがにこれだけはシンジが買い物に付き合うわけにはいかないので、シンジが非番のマヤに頼んでレイの身につけるものをみつくろってもらったのだ。マヤは快くシンジの依頼を引き受けてレイと一緒に買い物にでかけ、彼女の下着一式やパジャマ、普段着から一応の「よそいき」までを選んでくれた。
だが、レイの好みそのものがシンプルだったので、やはりその中身は、17歳の少女のものにしてはかなり地味だった。
「やっぱりこれかしら・・・」
白の、ノースリーブのワンピース。素材は素朴なコットンギャバジンだったが、凝った仕立てのピンストライプと小さなフリルが控えめに前身頃を飾っている。大きくフレアが広がるプリンセスラインのスカートはふくらはぎの下までの長さがあり、透けるように薄い綿ローンのオーバースカートがついている。
これは、マヤに選んでもらったものではない。レイが、自分で選んで買ったものだ。そして、このワンピースを初めて身にまとった日の出来事を思い出し、レイはひとりで赤くなった。
華奢なレイがこの服を身にまとうと、細い身体にぴったり沿った上半身からゆるやかにスカートが流れ落ちて、歩くたびに優雅に揺れる。一見シンプルだが上品な、よく見ると凝った作りのこのワンピースは、カジュアルな素材ながらウェディングドレスにしてもおかしくないほど美しかった。
これに、象牙色のレースのショールを合わせて肩にかけた。象牙色のショールは、このワンピースに合わせてシンジが選んでくれたものだ。
部屋の隅に無造作に立てかけてある姿見に自分を映して見ると、白銀の髪、白い肌、白いワンピース、白いショール・・・そしてきらきらと揺らめく蒼月輝石の儚い光。紅い瞳は、どこか不安げな色をたたえていた。
自分でもその漠然とした不安を扱いかねて、レイは鏡に向かって無理に微笑んでみた。すると少し不安の色が薄らいだような気がして、もう一度小さく鏡の中の自分に微笑みかけてから、彼女は部屋を出た。
NEO−NERVから差し向けられた迎えの車を運転していたのは、日向本人だった。しかも、いつものNEO−NERVの制服ではなく、ややカジュアルっぽい雰囲気のスーツ姿だった。
「や、お待たせ。さあ乗って」
「日向さん」
「ん?」
「日向さんが自分で迎えに来るなんて・・・それに、制服・・・は?」
「そんなにヘンかい?」
「いえ、そんな・・・」
「ははは、たまにはいいもんだよ」
屈託なげな日向の様子に、シンジとレイは『どうやらこれは悪い用件ではなさそうだ』と内心胸をなでおろした。
「服装は・・・これでよろしいでしょうか」
「ああ、レイちゃん・・・上等上等、かわいいよ。シンジ君がうらやましいな」
日向はワンピースにショール、素足に華奢なサンダルをはいたレイの姿を見て相好を崩した。うらやましいという最後の一言で、シンジがちょっと赤くなる。
「綾波、寒くない?」
「大丈夫」
確かに外の空気はかなり涼しかったが、エアコンが効いた車内は快適だった。
「緊急の用件、って何でしょう?」
シンジが水を向けると、ハンドルを握っている日向はバックミラー越しにちらりと微笑んだ。
「さあね? 僕もよく知らないんだよ・・・ふふっ」
「?」
子供たちは、まるで狐につままれたような気分だった。彼らを乗せた車は、すべるように夜の中を走り抜けていった。
日向の運転する車は、静かなNEO−NERV本部の本館ゲートの前に止まった。
「先に本館第一会議室へ行っててくれるかな? 僕は車を置いてから向かうから」
「・・・はい」
NEO−NERV本館の入館ゲートは、やはりかつてのNERVのそれと似た仕様になっている。シンジとレイはそれぞれ、自分のパスをスロットに送り込んでゲートをくぐった。シンジのパスは黒、レイのパスはメタルブルーで縁取られている。
「碇君のとわたしの、色が違う・・・」
「え? ああ、それはしょうがないよ。僕は実験エリアに入ったりもするから」
「・・・そうなの?」
シンジは小さく狼狽したが、かろうじてそれを表面には出さずにすんだ。シンジが持つ黒の縁取りのパスは、実はNEO−NERVの内部でもごく限られた中枢部の人間しか持っていないものなのだ。
レイのパスは彼女のためだけに特別に用意されたもので、このメタルブルーの縁取りのパスを持つものはレイの他にはいない。これは、レイのNEO−NERVへの出入りをMAGIに通知する機能を持っている。通知を受けたMAGIは、館内のレイの位置をカメラで把握し、彼女をガードする仕組みになっていた。
もちろんシンジはそのことを知っていたが、レイは知らない。おそらくは知ろうとも思わないのだろうが、やはり配慮は必要だとシンジは考えていた。いまだに、彼女への違和感というよりは敵意を捨てきれていない職員がいることは、シンジにとってやりきれない事実だった。
「さ、行こうか」
「ええ」
シンジは先に立って歩き出し――振り返って、レイに片手を差し出した。レイはうれしげにシンジの手に自分の手を任せる。ふたりは手をつないで、節電のために薄暗くされた廊下を歩いていった。
――本館第一会議室。
NEO−NERVでは部署と棟によって、会議室がそれぞれに設けられている。その全部の予定を、ちゃんと把握しているのはMAGIだけだといわれていた。
シンジがノックをしてドアを開いたが、中には誰もいない。
「あれ?」
しかも、節電が徹底されているはずだというのに、ここにはこうこうと灯りがつけられていた。
「・・・なんだかなぁ」
「碇君、これ」
レイが、机の上に置いてあったらしいメモ用紙を差し出した。
「ん?」
シンジはレイからメモ用紙を受け取り、中身に目を通した。
「えっと・・・え、あれ? 第三会議室に変更?」
メモにはマヤの几帳面な字で『本日ここで予定されていた会議は、都合により本館第三会議室へ変更になりました。シンジくん、レイちゃん、連絡不行き届きでごめんなさいね』と、書かれていた。
「なーんだ、もう・・・電話してくれたらよかったのに」
シンジは思わず苦笑してしまった。
「綾波、なんか第三会議室に変更、なんだってさ。行こうか」
本館第三会議室はよく使用される第一会議室よりもはるかに狭い部屋だ。だから、もっぱら休憩室代わりや軽い打ち合わせに使われている。
「最初からこっち使えば良かったのにね」
「そうね」
こんこん、とシンジはドアをノックした。が、また中からは返答がない。
「おかしいなあ・・・こっちだ、って書いてあるのに」
「入ってみれば判るわ」
「そうだね」
がちゃ。ドアの鍵はかかっていなかった。
「碇シンジ、綾波レイ、はいりまー・・・?!」
「――Merry Christmas!!!」
「きゃっ?!」
ぱん、ぱんぱん、ぱんっ!!
景気のいいクラッカーの破裂音。驚いて扉のところで棒立ちになったふたりに、部屋の中にいた人々が微笑みかけた。
「ようこそクリスマスパーティ会場へ」
明るい笑顔のマヤ、にやにやしている日向、ちょっとクールっぽく斜に構えた青葉・・・他にもいろいろな部署のスタッフの顔があった。みな私服で、それぞれが普段着ではなく、少しおしゃれをしてきているのが見て取れた。
「あの、これは・・・?」
シンジが、ようやくそれだけを口にした。レイは驚きのあまり口もきけずにいる。
「――きょう、クリスマスの話をしたでしょ? あんまり懐かしかったから・・・有志を募って、クリスマスパーティをすることにしたのよ。シンジくんとレイちゃんは特別ゲスト。さあどうぞ」
「・・・クリスマス、パーティ・・・」
「何も特別なことをするわけじゃないわ。ただ、みんなで楽しめばいいの。ほらほら」
狭い室内は、赤と緑と金色で飾られ、BGMにクリスマスソングが流れている。机の上にはどこから手に入れたものか、小さいながらクリスマスツリーまで用意されていた――そこには、シンジがMAGIの資料映像で見た光景がそのまま再現されていた。
「クリスマスだ・・・」
風情がなくてごめんなさいね、といいながら、マヤがその場の全員に紙コップを配った。そこへ。
「やあ、まだ席はあるかね?」
――穏やかな微笑を浮かべた冬月が入ってきた。
「もちろん、特別席を用意してお待ちしてました」
マヤが冬月にも紙コップを手渡す。冬月は、感慨深げに室内の飾り付けを見まわした。
「・・・昔、子供たちのために飾ったものだ・・・何年ぶりだろうな」
「勤務時間外ですから、司令もどうぞ」
参加していた女性スタッフのひとりが、冬月の紙コップにビールを注いだ。
「お、すまないね」
「シンジくんたちは未成年だからこっちね」
マヤが、用意してあったシャンパン風ソーダのビンを手に手招きした。白い紙コップにばら色のソーダ水が注がれると、勢いよく炭酸の泡が上がってぱちぱちとはじける。
「みなさん、飲物は行き渡りましたか?」
参加者たちが、紙コップをかかげて唱和した。
「Merry Christmas!!!」
参加者たちのどの顔も、幼い頃の思い出をしのんで柔らかく和んでいる。BGMのクリスマスソングに合わせて歌うものあり、乾杯するものあり、思い出話にふけるものあり・・・。
みんなごく自然にこの場を楽しんでいるのが判る。何をしているというのでもない冬月でさえ、用意された椅子に収まって楽しげに見える。
「さあ、どうぞ」
テーブルの上に山と盛り付けられたフライドチキン――本来はローストチキンなのだろうが、人数と手数を考えたらこのほうがはるかに楽で効率がよい。
チキンだけでなく彩り豊かなサラダやスナック・ピザ・その他もろもろの料理は、ケータリングに頼んだものか。
「シンジくんたちも食べないと、なくなっちゃうわよ」
「あ、はい」
シンジはレイの手を引いてテーブルに寄った。シンジはチキンとピザを自分の皿に取り、レイはサラダと果物・カッテージチーズのカナッペを取り分けた。
「みんな、楽しそうだね」
「・・・楽しいわ」
「うん、そうだね」
と。
「素敵・・・」
レイの目が、テーブルの中央にくぎづけになった。
「どうしたの?」
テーブルの中央にでんと鎮座していたのは、特大のデコレーションケーキだった。特注品らしく、愛らしい動物のマジパン細工やチョコレート、ヒイラギの小枝、クリームのバラの花、紅いイチゴなどで飾られている。もちろん、クリスマスケーキとしての『お約束』であるところのトナカイとサンタクロースも飾られていた。
なぜかレイは、シンジと暮らし始めてから甘いものに目がなくなってしまったのだ。それまでの粗食の反動だろうか、と、シンジはひそかに首をひねったものだが。
そんなレイにとって、この大きなクリスマスケーキは見逃せない魅力を放っていたのだった。
「・・・ケーキ・・・」
そんなレイに気づいたのか、マヤがレイに声をかけた。
「レイちゃん、ケーキにキャンドル立てるのを手伝ってくれる?」
「・・・はい」
虹の七色を模した細いデコレーションキャンドルが、レイとマヤの手によってケーキにたてられた。日向がライターで火をつけると、誰かが気を利かせて部屋の明かりを落とした。
ゆらゆらとおぼろな星のように揺れるキャンドルの炎が、部屋の面々の顔を優しく照らし出す。それまで部屋の隅に座っていた青葉が、やおらギターを取り上げた。
―― Silent Night、Holy Night ・・・
それは、昼間にマヤが口ずさんでいたメロディだった。この曲をよく知らないシンジたち以外の全員が、口々にメロディに唱和した。冬月も、ごく低い声で歌っている。目には涙が光っていたようだった。
――聖しこの夜 星は光り
すくいの御子は み母の胸に
眠りたもう いとやすく――
アルペジオの最後の音が消え、部屋に静寂が満ちた。
「さあ、火を消しましょう。レイちゃん、吹き消して」
突然そう言われたレイはとまどったようだった。
「・・・あの、わたし・・・?」
「ええ。さあ一気に吹き消すのよ」
その時、シンジはケーキにキャンドルが17本立ててあったことに気づいた。
『・・・あ・・・!』
マヤが気を利かせてくれたのだと、ようやくシンジは思い当たった。
「はい、せーの」
――ふーっ。
頬を上気させたレイが、一気に炎を吹き消した。部屋が、闇に落ちる。
「Merry Christmas・・・」
部屋の明かりがともされ、ぱちぱちぱち・・・という拍手とともに改めて全員が声を揃えた。この雰囲気は確かに悪いもんじゃないな、と、シンジもまんざらでない気分になった。人々の輪の中で、レイは紅い瞳をきらきらさせていた。
冬月の目に、楽しげな『子供たち』の様子が映っている。ついに息子に一言もわびることなく死んだ父親と、遺された息子と『娘』――肩を寄せ合い、必死に生きている子供たちの行く末を見るまでは死ねない、と冬月は思う。
それが、盟友の暴走をついに止められなかった自分の、精一杯の償いなのだと・・・。
すでに神なきこの世に、ささやかに催された『聖誕祭』は夜が更けてなおも続いた。楽しげな笑い声は、いつまでも絶えることはなかった。
「楽しかったです・・・日向さん、お世話様でした」
「シンジくんもレイちゃんも、風邪をひかないようにね。おやすみ」
「マヤさんと青葉さんにも、ありがとうございましたって伝えてください」
「ああ、伝えておくよ」
「おやすみなさい」
走り去る車の赤いテールランプが、角を曲がって見えなくなった。満天の星々が、手を伸ばせば届きそうなほどに明るく輝いている。
パーティの名残でほてった身体と頬を冷たい風がなでてゆく。
「寒くない?」
「・・・少し」
シンジの腕が、レイを包んだ。暖かい腕の中から星を見上げる。どんな冷たい風が吹いても、この腕に包まれてさえいれば平気・・・レイはそう思った。あなたがここにいてくれるなら、わたしはきっと大丈夫。
「・・・きれいだね」
「星が降ってくるみたい」
「うん」
「わたし・・・うれしかった」
「ん?」
「今日、キャンドルを吹き消した時・・・みんなが拍手をしてくれたのが」
「僕も、すごくうれしかった」
「わたし、ここにいてもいいのね」
「もちろんだよ」
「どこにも行かないでね」
「綾波こそ」
「わたしは・・・どこにもいかないわ・・・ずっと碇君のそばに・・・いるわ」
「きっとだよ」
「約束するわ」
レイの左手を、シンジの掌が包んだ。と、薬指に、ひやりと冷たい感触が滑り込んだ。
「・・・?」
「約束の、しるし」
銀色の指輪。シンジの左手にも同じ指に指輪がはまっている。
「・・・これって・・・」
「うん」
照れくさそうなシンジの笑顔。あんまり眩しくて、息が苦しくなる。胸がいっぱいで、何も言えない。この気持ちをどう伝えたらいいのだろう?
「あ・・・あり、が、とう・・・」
――後は言葉にならなかった。
「・・・冷えちゃうから、部屋に戻ろうか」
「うん」
二つの影が、建物の中に吸い込まれて消えた。後には、満天の星がきらきらと瞬いていた。
賢者の上にも愚者の上にも等しく、こぼれるほどに星の降った夜のことだった。
――神は天にいまし、世は全てこともなし――
...and Merry Christmas for You...