〜Introduction 『Rei II 』









『――R・e・i……レイ II トランスファー、レイ III…。
 ブレインバックアップシステム起動……ノーマルモードキャンセル――プレシャス――』

『パスワード入力』

『***** ************ ***** *************』

『パスワード確認…プレシャスモードへのアクセスを許可……
 ……プレシャスモード、起動』

 いつもはリツコが陣取っているモニターブースに、銀髪の少女が納まっている。現在、深夜2:00。

 僅かな当直とMAGIのオートプログラムによってのみ、NERVが管轄されているはずの時間。



『――プレシャス領域・固定』



 電子音声の返答を聞くと、少女はその場で身に付けていたものを全て脱ぎ捨てた――スカート、ブラウス、えんじ色のリボン。

 下着さえ捨てて、少女は一糸まとわぬ姿になった。


『スタンバイ』


 モニターの前から少女は歩みをすすめ、円形の踏み台に登る。彼女が台の中央に立つと、台の下から円筒形の強化ガラスがせり上がった。

『接続端子、接触』

 強化ガラスの水槽に、MAGIのニューロン端子が蓋をするようにはまり込んだ。

『注水』


 ――ごぼっ。


 赤い、血の臭いのする液体が、彼女を包んでゆく。

『接続、完了』

 無人のモニターブースのディスプレイに、ほとほとと文字がまたたいている。

『プレシャス領域アクセス、ダイヴ』

『――ブレイン・ダイヴ、スタート……』






………ヒュウウゥゥゥ…ィィィィイイイィィィ………






 少女は、初めて<命令>を破った。

『碇君の…記憶……』

 忘れずにいるために。何もないはずの自分に、大切なひとがいたということを忘れずにいるために。

 たったひとつの大切な思い出を、汚れた彼等の手に触れさせないために。






『あなたに逢えて……あなたに触れて……あなたを……』

『忘れないわ、決して――誰にも、触らせないわ…あたしだけの記憶を――』

『碇君…<あたし>を忘れないで……』

『……いかりくん……』


























『――プレシャス登録、終了、領域封鎖へ』

『>この領域は封鎖後再書き込みできません

 >消去不可能:要、MAGIの再フォーマット

 >封鎖しますか? Y/N』



 白い指が<YES>をクリックした。


『これで……<忘れずに>いられるわ……』

 そう呟いた少女は、この作業のLOGを消去するために白い指を再び踊らせた。



 やがて『HEAVEN’s DOOR』が、重い音を立てて閉ざされる。まるで、かの少女の心のように……。







 

『14才の福音<EVA>』

EVA 14teen
〜The Judgement Day〜

聖羽

EPISODE #1


 






 荒れ果てたNERVの病院棟で私が意識を取り戻した時、付きっきりでいてくれたらしい碇君が、 ぽつりと言った。

「…綾波が生きててくれて、よかった」

 いかりくん。まぶたを開いて、まっ先に飛び込んで来た顔。やつれて、憔悴して、別人のようになっていたけど私にはすぐ判った。これは、碇君。

「……」

 身体を起こそうとして身じろぎすると、碇君が慌てて押しとどめた。その表情がこわばって、鬼のような形相になっている。

「だめだよ、綾波!!」

「…?」

 私が不思議そうな顔をしたのだろう、碇君ははたと気づいたように手を引っ込めると、その表情を消した。心配そうなもとの表情が戻ってくる。

「まだ、動かないで……綾波、10日間も昏睡状態だったから」

 意識を身体の隅々まではり巡らせて、状態を探る。痛みはない。けれど、感覚が全体的に鈍くて変な感じ。こちらの命令に反応してくれるかどうか、自信が持てない。

 麻痺。ちょうどこういう感じ。それにしても、何で私はそんなことを知っているんだろう?

「綾波……ごめん」

 長い沈黙の後、ようやく、つらそうな顔で碇君は言った。

『ごめん』と……。

 私は、何も聞こうとは思わなかった。自分の名前も、何をしていたかも全く思い出せなかったから。

 ただ一つ憶えていたのは、彼のこと。

 ――碇シンジ君。大切なひと。それだけを辛うじて思い出して、それで満足しなければいけない自分がもどかしくて、それが口惜しくて、唇を噛むことしかできなかった。

 彼を知っている。彼をとても大切に思う。そんなつらい顔をしてほしくない。

 何か言わなくては。話そうとして、愕然とする。

『言葉が?!』

 唇を開こうとした私の顔がこわばった。声が出ない。言葉がかたちにならない。思考は厳然として働いているのに、その結果を言葉に変換して唇に載せようとすると、とたんに何かおかしな事になってしまうのだ。

『何故?!』

 狼狽が顔に出てしまったのだろうか。

「綾波? どうしたの?!」

 何も考えられない。思いが伝えられない。自分の状況すら説明できない――動けない身体のショックと相まって、私はパニック状態になったらしい。





『う、う…ぁあああああああああああ……』





 獣の咆哮。自分の口からでたとも思えないような、身の毛もよだつその響き……。

 







 






『帰還』と後に呼称された現象が、そこここで起こっていた。サード・インパクトによって一度は原始の海に溶け込んだ人間たちは、偶然か必然かの別をとわず、徐々にその姿を取り戻しつつあった。

 意志の強いものが『帰還』するとも言われていたが、正確なところは不明。判っているのは、ある日突然、人間が波打ち際に打ち上げられているということだけ。

 そして彼等『帰還者』は一様にこういうのだ。

『自分でも、何がなんだかさっぱりわからない』

 と――。

 







 






 世界中を襲った大破壊、サード・インパクトは起こるべくして起こった。破壊を防ぐための組織であったはずのNERVも、使徒とADAMの接触を防ぐためのEVAも、結局はなんの役にも立たなかったということになる。

 それを責める存在はもうない。サード・インパクトの混乱で、各国の政府は壊滅状態にあった。

 長い時間をかけて国連の中枢に食い込んだSEELEにいいように操られ、結果として、彼等自身がサード・インパクトに手を貸したようなものだったが、そのことを知るものは少なかった――大多数の人々は、何が何だか判らないうちに災厄に巻き込まれたのだ。

 NERVの上部組織であったSEELEの中枢も、一緒に壊滅してしまった。そして、恐るべき欺瞞が明らかになる。

『SEELEと、元NERV司令・碇ゲンドウこそが、サード・インパクトの陰の首謀者だった』という事実は、生き残った=『帰還』したNERV幹部が中心となって構成された『NEO−NERV』によって見い出され、外部には厳重に隠匿された。

 この、あまりにも手酷い裏切りを、かつて少しでもNERVに関わったことのある人間たちが許すはずもなかったからだ。

 







 






 NERV。サード・インパクトを未然に防ぎ、世界を護るための特務機関。それまで何も知らされていなかったその生き残りたちは、彼等の組織と目的とをねじ曲げ狂わせたSEELEを、文字通り地の果てまで追いつめることを決めた。

 もう一方の首謀者であった碇ゲンドウについては、公式記録では行方不明とされていたが、NEO−NERV内部では、すでに死亡したものと認識されている。

 現NEO−NERV司令・冬月コウゾウの証言。





「あいつは――碇ゲンドウは、ユイ君を追って行ってしまったんだよ……『門の向こう』にな……」





 冬月司令自身も、悪魔の囁き『人類補完計画』に加担したひとり。

『帰還』した彼は、そして、教え子であり盟友でもあった碇ゲンドウの妄執の底を計りかねたことに責任を感じ、NEO−NERVの総司令就任の要請に応じたのだった。

 ようやく世界が落ち着きを取り戻し始めたA.D.2018、NEO−NERVの幹部たちの間に衝撃が走る。



『SEELE復活』



 NEO−NERVは、非公式にSEELEの残党狩りを行ってきた。元々が非合法組織すれすれで あったSEELEは、サード・インパクト前の闇の世界の頂点に君臨していたのである。

 頭脳である中枢が死んでも、その組織は生き残っている。その生き残った組織の息の根を完全に止めること――それが、NEO−NERVの隠された存在意義。

 そのNEO−NERVの陰の部分を指揮しているのは、情報戦のエキスパートと故・葛城ミサトに深く信頼されていた日向マコト一尉(暫定)だった。

『帰還』した日向は、NEO−NERVに幹部として復帰し、かつての上司であり、また彼が淡い思いを寄せていた、葛城ミサトの遺志を継ぐためにこの仕事を自ら志願した。

 日向が指揮する対SEELE作戦本部には、様々な人材が集められていた。本部長をつとめる日向のパートナーは、同じく『帰還者』青葉シゲル。

 元は冬月の直属部下であった彼は、現在階級としては日向と同格の一尉。この二人はその有能さから、冬月司令からも深く信頼されていた。

 日向と青葉は、SEELEの残党を全てあぶり出し、狩り出すために、巧緻な情報網を世界中に張り巡らせ、罠を仕掛けた。そして、彼等が巧妙に張り巡らせたアンテナに、その無視できない情報が引っかかったのである。

 ただちに対SEELE作戦本部が召集され、対策会議が開かれる。そのメンバーの中には、まだ若い――幼い、と言い換えても差し支えないような人物の顔が含まれていた……。

 







 






To be Continued....to#2

 







 






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